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natural planty2*

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2020年05月 ≪  123456789101112131415161718192021222324252627282930 ≫ 2020年07月

可愛い彼女との恋の始め方





彼女は、とても可愛い人だ

「・・・良かった、今日、すぐにでも収穫できるよ」

いつでも 欲しい言葉をくれる


エンジ色の学園ジャージを着て
土を頬にほんのりと付けた、彼女が嬉しそうに、こちらを振り向いた

ここは屋上
彼女は、ここで野菜を育てている


「・・・今日、貴方がここに来る気がして」

収穫した野菜を持って、彼女がこちらに歩いてきた

「・・・はい」

と彼女の手から
収穫されたばかりの不揃いな形の野菜を受け取って
ふと、彼女の顔に視線を合わすと

「・・・・?」

きょとんとした彼女の顔が、そこにはあって
何だかその表情がとても可愛くて
そして

「・・・・頬に、土ついてる」

己の指先を、彼女に伸ばした

「・・・えっ、あ、あの・・・・」

彼女の顔が、赤くなって

「・・・貴方の指、汚れるよ」

と彼女の言葉が返ってきた


彼女と恋人
"特別な関係"になって、まだ日は浅い

お互いが、お互いの事を、まだ、ほとんど何も知らない
"知らないことだらけだ"

だからこそ、一緒に居るべきだと思う

もっと自分の事を 知ってもらう為に
もっと相手の事を知る為に
もっとお互いの事を よく理解する為に

「・・・春に逢いに来た」
「・・・嬉しい」
「・・・一緒に帰ろうと思って」
「・・・うん」

彼女は、いつも自分の言葉で嬉しそうに笑ってくれる
それが、とても心地よくて
そして"嬉しい"

「・・・それじゃ・・・あの、着替えてくるね、ここで待ってて」

パタパタと階段の方へ向かって
走り去っていく、彼女の後姿を横目で見送りながら
どんよりと覆いつくす、屋上の空の、厚い雲の流れの早さに驚く

(・・・・・あ・・・・雨、降ってきた)

いつもなら、抜けるように高い秋の空が広がる屋上も
どうやら今日は、不機嫌らしい

(・・・・・傘、持ってきて良かった)


朝、普段なら、あまり目にしないTVの天気のニュースを
今日は、偶然チェックしてきたおかげで
カバンには、何冊かのノートと筆記用具、傘
それに

「・・・おい、傘、持ってきて良かったな」

モルガナが入っている

「・・・春と一緒に帰るのか?」
「・・・・・あぁ」
「・・・もし、春が傘を持っていなかったら、ちゃんと入れてやれよ」
「・・・当然だ」

雨が降って来たので、屋上のドア近くの雨どい付近まで後退した
すると、後退としたと同時に、屋上のドアが開いて

「・・・ごめんなさい、お待たせしして」

と彼女の声がする

「・・・いや、別に・・・そんなに待ってな・・・」

そう、彼女に声をかけながら
後ろを振り向こうとして、バランスを崩す

「・・・きゃ・・・・」

彼女の顔が、自分の背中にぶつかって、ちょうど首筋の辺りに彼女の顔が埋もれる

そして
「・・・ふぎゃっ」
とモルガナの声がして
バランスを崩した拍子に、自分の肩にかけていたカバンも
その場に落としてしまった

彼女も鼻を、自分の背中にぶつけたようだった

「・・・大丈夫か」

2人に声をかけて

「・・・だ、大丈夫」
と彼女から先に返事が返ってきて
「・・・大丈夫じゃない」
と、モルガナからも返事が返ってきた

カバンを拾おうと、かがもうとすると

「・・・あ、ごめんなさ・・・」

彼女が、自分の背中に、一瞬、手のひらを置いてから
後ろに下がって
彼女と密着していた背中から
ほんのりと、花のような香りがした気がして
少しドキッとした

「・・・いや・・・・・」

春のふわふわした髪が、自分の首筋を流れた気がして

(・・・春って、こんなにも小さかったのか)

彼女と、自分の身長差をを知る

モルガナが入ったカバンを、再び、肩に背負い直して
カバンから、傘を出した

「・・・春、こっち」
「・・・う、うん」

案の定、春は"傘を忘れた"と言っていたので
自分の傘に春を入れて、帰る事になった

(・・・・あ、そうか)

彼女と自分の足、リーチの長さが違うので
どうしても、彼女との距離が開いてしまいがちになる

自分の視線と思惑に気づいたのか
彼女が、自分の顔を見ながら

「・・・・・私は、大丈夫だよ」

と声をかけてきた

そう言う、彼女を守ってあげたいと思った

人の事を良く見ていて
気遣いの出来る所
相手を思いやる気持ちとか、人のために役立とうと一生懸命な所

そして、何より

「・・・・・貴方と一緒に帰れるだけで、とても嬉しい」

とても可愛い所

彼女の小さな手のひらを引いて
同じスピードで、同じ道を一緒に歩いた


「・・・・手を繋いで歩けば、問題もなくなる」
「・・・うん、そうだね」


繋いだ手のひらから伝わる お互いの熱

「・・・・私ね、貴方の事、もっと もっと、たくさん知りたい」

彼女が"愛おしい"
俺にとって、彼女は、とても"可愛い人"だ














































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主×春 | Comments(-) | Trackbacks(-)

器用な彼と不器用な彼女





彼は器用な人だ


「・・・キスしても良い?」


人が言えないような事を、簡単に口にしてしまう


「・・・え・・・ええっ・・・?」

本当は嬉しい気持ちで一杯で

もう少しお姉さんぶって、返事を返したいと思っているのに
彼の前だと、どうしても 上手く伝えられない

「・・・・・・・・」

隣に座る彼と視線を合わせられないまま
視線を泳がせていると
彼が、覗き込むように、私の顔を見ようとする

「・・・・・?」
「・・・・・・」

ここは、少しほろ苦い、コーヒーの香りが鼻を付く、彼の部屋

作業机の隣にある、少し大きめなソファーに二人で座って
他愛ない、日常会話を
さっきまで楽しんでいた 私と彼だと言うのに

彼の一言で
空気ががらりと変わってしまった

でも、彼が悪いんじゃない
原因は"私のせい"

嬉しい気持ちを 素直にそのまま伝えられない、私のせい


(・・・・不器用な、"私" )

少し、しょんぼりした気持ちになる

「・・・春・・・?」


(・・・これでも、ちゃんと考えて、こういう事期待して、彼の部屋に来て
・・・・彼より、お姉さんのつもりでいたのに・・・)


実際のその状況になってみると、全然自分が、自分自身が
思ったように動けない事に気付く


(・・・彼は、とても、大人っぽい)


彼と初めて会った時
彼の事を"同じ歳"ではないかと思っていた時期が、だけ少しある

年齢に関係なく、気安く話しかけてくれる所
物腰が柔らかくて、とても落ち着いている所

年上のような印象を与える所なんかは、彼が年上だ、と言っても
嘘だと言う事を見抜けずに、信じられる気さえしてした

実際、彼は怪盗団のリーダーで
他のメンバーからも、信頼されていて"ジョーカー"と呼ばれている
自分よりも1つ年下の男の子で
彼が、年下だと聞いた時は、とてもびっくりしたけれど
年上とか、年下とか関係なく、周りをよく見ていて、怪盗団の"リーダー"にぴったりだと思った

彼と知り合ってから
私自身、彼の寛容の深さに、色々なことを相談したり
助けてもらったりして
自分の持っていないものをたくさん持っている彼に触発されたり

彼の事を知っていくうちに

どんどん、彼の事を好きになっていく、自分に気付いていって

「・・・・えぇ・・・と・・・・」
「・・・・駄目?」

私は、彼みたいに器用じゃない
とても不器用で

彼の言葉を必死に受け入れる事に、精一杯で
彼が喜ぶような言葉一つ、上手く言えない

「・・・・だ・・・駄目なんかじゃな・・・・」

過去の自分を思い出せば
今までの自分は、親が言ったこと、誰かが自分に言ったことを
まるで、自分の決めごとのように、当たり前のような出来事だと言うように
受け入れて、親の敷いたレールの上を、ただただ、歩くだけの、人形のようだった

それが、"この家に生まれた宿命"だと言うように
自分に言い聞かせて

"だけど、今は?"

「・・・・も・・・・もちろん・・・いいよ」

今は、彼と知り合って
彼を好きになって
自分が思った事を、素直に、口にする事が出来る

「・・・あの・・・・」

そう、春が言葉を紡ごうとして
彼に、ソファーの上に置いていた手のひらを握られた

彼の長い指先が、彼女まで届いて
その行為に、、春は一瞬、びくっと身体を震わせて、思わず、ギュッと瞳を閉じた

彼の指が彼女の頬に、跡を残していくかのようにに流れて
春のふわふわの、髪先に辿りつく

お互い、何も話していないはずなのに
息遣いだけが近くに聞こえて
ギュッと瞳を閉じた春は、近づく彼の顔を見てしまいたいと思っているのに

「・・・・・・・」

心臓の音がやけにうるさくて、瞳を開ける事が出来ずにいた

髪先にたどり着いていった、彼の指先が
春の口先の上をなぞって
春は、眼を閉じまま、彼の指先の感触を知る

「・・・っ・・・・」

その行為にたまらなくなった春が、ようやく、閉じた瞳を開けようと
薄く瞳を開こうとすると
瞳の前に、さらさらとした、彼の黒髪が、視線の前を横切って
頬を流れていくのが見えた

彼の名前を思わず呼ぼうとして
春が、口先を少し開こうとすると
その言葉を封じられるように、春の口先に、彼の唇が触れたのが分かった気がした

「・・・・っ・・・ん・・・・っ」

思わず、春の口先から、彼の彼の名前ではなく、小さく声が出る

彼の口先が触れたと同時に、"チュッ"と音が
春の耳には、後から届いて
恥ずかしさが、キスされた後に、ワッとやって来た

目の前に映る彼の顔が、確信犯かと言うように
春の赤くなった顔を見て、クスッと笑っていた

「・・・・・!」

後からやって来た恥ずかしさに
思わず春は、彼の胸の中に抱きついて
赤くなった顔を隠した

「・・・確信犯ですね?」
「・・・・確信犯ですよ?」


彼の彼女の手を握っていた手のひらが、いつのまにか
春の背中に、回っていて
強く、強く、彼女を抱きしめていた

背中に回った手のひらが、ほんのり温かくて
その行為が、とても嬉しくて
春の素直な気持ちが、言葉に、声に変わる

「・・・・も・・・もう少し、ずっと・・・・このままで」
「・・・もう少しと言わず、いくらでも」

不器用な自分
それは今もまだ、あまり変わっていない

でも、彼と一緒に居るだけで

彼が私を変えていく
彼に私が変えられていく

彼は"ずるい"
そして、私にとって、やっぱり器用な人だ
















主×春 | Comments(-) | Trackbacks(-)

君に恋して





微かな雨の匂いに 目を閉じて
彼を想い

瞼の裏の闇には
己の心が見え隠れする


胸を焦がして  理性を奪い去るほどの



                      ◆act.1「必然な恋の始まり」



「・・・僕は君に音楽を教える 代わりに君は僕に「恋」と言うものを教えてよ」


それが始まりの合図のようなものだった

流れに逆らえず、飲み込まれてしまうような感覚
彼の一言は、私の全てを変えてしまった


                                 
                                 ◆◆



「・・・それならいい場所があるよ、駅前に貸しスタジオって言って、練習スペースを貸してくれるの」

その日、友人に言われるまで、奏は、実技課題の事をすっかり忘れていた
時間的にも、学院の練習室が使えないと言う偶然が
彼と自分を引き合わせたのだ

駅前の練習スタジオ
一部屋だけ空いている部屋
バイオリンを奏でていると、少し高めの甘い声が聞こえた

「・・・あれ、君は?」

そこに居合わせた "彼"と言う存在

「・・・先客がいるとは思わなかった」


"・・・久しぶりに個々のピアノを弾こうと思って・・・"

そう言う彼は、一つ年上のピアノ伴奏者で
金色の髪にアメジストのような、紫色の瞳をしていて
少し高めの甘い声を持つ少年だった

"一緒に部屋を使わないか"と提案を自分から持ちかけて
彼が練習している曲が、同じ曲だと知り
自分は彼に運命のような、親近感のような気持ちがした

"偶然"

そんな言葉で、片付けられてししまいつつも
彼に感じた親近感にも似た気持ちが、奏の背中を押す

「・・・一緒に弾いてみませんか?」

初め、彼は"他人と弾くのは・・・"と断った
けれど
自分の弾き語りを聞いて、最終的には一緒に弾いてくれる事になった

共振して、大きく揺れるように お互い歩み寄る
バイオリンとピアノの音が、部屋中一杯に響いて
同じ曲を同じ空間で、同じ時間の中で弾くと言う行為に、とても有意義さを感じた

些細な行動の積み重ねが偶然を全て"必然"へと変わっていく

そう感じたのは自分だけではなかったようで
彼も自分も弾き終わった後に、爽快感を感じていた

何回か弾いた後で、彼は

「・・・僕と君とは音楽的な相性がいいのかもしれない」
とそう呟いた

もう一度、彼は一緒に弾こうと言って
残りわずかな時間に気づいて、彼は私に言ったのだ

"・・・また、逢える?"

その言葉が、これからの2人にとって
大切な言葉になる事も知らずに

流れに逆らわないまま、気が付けば、自分は同じ場所に立っていて
飲み込まれてしまうような感覚
自分は確かに、一瞬一瞬をその行動を
選び取っているはずなのに、導かれるように、彼の元へと逢いに行って

彼は言う
「・・・僕は君に音楽を教える 代わりに君は僕に「恋」と言うものを教えてよ」

彼の名前は、天宮静と言う

彼は、自分が持っていないものを手にする為に、私を利用したいと言う
その見返りに、私に音楽の技術と言う代価を与えてくれると言う

形のない、形の見えない「恋」と言うものを手にする為に

普通の感覚なら、きっとどこかおかしいと言われるのかもしれない
利用とか代価とか
そんなもの、もし、恋と言う言葉の意味そのものを知っていたら
そんな、くだらない事自体に付き合わないのかも知れない

例えば、彼にとって、今言った言葉がどれだけ重要だったとしても
自分にとって、その行為そのものが無価値なものでしかないなら
お断りしていただろう

だけど、自分は、彼に逢った時
恋と言う言葉の意味さえ、何1つ知らない無知な人間で
それ以上に、彼の存在が、とても自分の興味を引いた

(・・・とても不思議な人)

彼の事を純粋に
もっと知りたいと、そう思ったのだ

もしも、この時
自分の周りに恋と言う意味を知っている誰かがいたのなら
"それが恋なんだよ"
と教えてくれる誰かはいたのだろうか

素直に、彼の事が知りたいと
自分の事も知って欲しいと思う気持ち

自分でもどうして?と心の中で、何回も復唱した
でも、その言葉は、彼への興味に負けてしまって

「・・・はい」

と言う言葉に変わってしまった

全てを知った上で、恋をするなんて
きっと出来ないだろうと、そう思っていた

自分自身ですら、知らない「恋」と言う見えないものを
どうすれば、手に入れるのか、出来るのだろうかなんて、知る由もない事だったからだ

意味のない愛の言葉を呟いてみたり
意味の分からない愛の曲を弾いてみたり

意味のない事から、恋は生まれないと、自分でも、どこかで感じ、思っていた

だけど
愛の言葉、愛の曲、そのものではなくて
2人で過ごす時間が
2人で一緒に行う意味のない 行為が、意味のない行動の一つ一つが
自分の心の中に少しずつ、零れ落ちていって、波紋を作っていく

彼の言う恋の実験は、今までの自分がすれば経験したことのない事ばかりで

(・・・彼に逢うと、とても楽しい)

2人で他愛のない事で、良く笑った


"・・・天宮さんが欲しいものは何ですか?"

"僕が欲しいものは恋心だよ、胸を焦がし、理性を奪い去る程の恋が知りたい"

"・・・・恋・・・"

"人の心を狂わせる程の強い気持ちって、どんなものだろう?"

"強い気持ち・・・"

"ねぇ、小日向さん、君は知ってる?それがどんなものなのか、僕に教えてくれる?"


毎回、垣間見られる新しい彼の一面を
自分の中だけで、切り取って、自分の心に保存する
ただ、ただ、その優しい彼の笑顔を眺めて、1人くすっと笑ってみたり

「・・・何?」
「・・・いいえ、なんでも」

(・・・彼にと逢うと、とても嬉しい)

なのに、いつからか

また次に会う約束をして、いつものように別れる
それが常であったのに
彼との別れ際、寂しいと思うようになったのは、いつだろう


(・・・これは、彼にとって実験でしかないのに)

彼に逢う度に、生まれては消えていく気持ちに
自分だけが、立ち止まって、戸惑って

(・・・彼に逢うと、とても寂しい)


確実に近づく何かに一喜一憂して
身体中の体温を全て彼に奪われてしまったかのような感覚に
心の中が とても苦しくて

自分の姿は、容姿は何も変わらないのに
心の中は彼への気持ちは
いつも、溢れ出してしまうくらい一杯一杯で
胸が、ズキズキと痛いばかりで

自分の心の中だけに切り取った、彼の優しい笑顔が、浮かんでは消える

(・・・こんなに、苦しくなったのに)

止められない想いに 上手く言葉にできなくて すぐ詰まってしまうのは


「・・・どうかしたの?」

そう聞かれて
思わず、彼と瞳が重なって
瞳の中、見透かされないように、首を横に振って

「・・・いえ、何でもないです」

思わず、彼の瞳から、目を背けたり

「・・・・小日向さん?」
「・・・・・・」

もし、彼が、欲しいと望むものが
恋心そのものではなく

"・・・私じゃダメですか?"

と言う言葉を、溢れ出しそうな心の中で、飲み込んで

「・・・天宮さん、今日も実験は、失敗ですね」
と言葉を返す
「・・・また、逢える?」

その彼の言葉に、嬉しさと寂しさを知る

「・・・いいですよ」

本心ではない、自分の心
この感情を諦めてしまえば、この痛みは消えてなくなってしまうのだろうか?

「・・・・・」

降り続く、雨のように
降り続く雨の雫みたいに

また1つ また1つ

彼との思い出が増えるたびに
沢山の記憶を分かち合って

また1つ また1つ

心の中は、彼の想いで、一杯なのに
彼には、心の言葉は何1つも届かないままで

気が付けば、彼の事を想い出す時間が
増えて、長くなって

何も手に付かなくなって


「・・・酷い雨だねぇ、小日向ちゃん、風邪引かないようにするんだよ」
「・・・ありがとう」
「・・・でも、何で、傘、忘れたの?」
「・・・・・」
「・・・昨日の天気予報だと、今日1日は雨だって言っていたのに」
「・・・朝、雨降っていなかったから」
「・・・でも、朝から空は真っ暗だったよ?」


傘を忘れてしまうくらい、今は、彼の事を考えている

違う学校の人だから、余計に?
それもあるけれど

きっと私は、彼の事をまだ何も知らない
きっと彼は、私の事をまだ何も知らない

私は、彼に逢う度、もっとをもっと知りたくて


「・・・小日向ちゃん、ど、どうしたの?」
「・・・え」
「・・・言いすぎちゃった?涙・・・出てるよ」


落ちる雫に、指先で触れてみる

次に逢えるのは、いつだろう?
指折り数えているのに、両手の数を合わせても、全然足りない

彼に出逢わなければ
こんな思いも こんな痛みも 私はきっと知らなかった



                      ◆act.2「彼を知る、彼女を知る、恋を知る」



指が絡んだ1秒がもどかしい

嘘でも
本当でも
彼の言葉が欲しい



                                  ◆


雨が降る
雨が降り続く
雨が、降りやまない


                                   ◆




映画館の前の待ち合わせの場所で
私は1人で、立ち尽くしている

行きかう人の波が目の前を、何度も通り過ぎて
彼の姿を探して、首を何度も横に流した
雨の雫に濡れた髪を、指で撫でつけながら

自分は、今、どんな顔をしているのだろう

彼に出逢う事のない、私なら
何も知らないままの自分なら
こんな痛みも想いも知らないまま
こんな今があると言う事も、こんな今日があると言う事も知らずに通り過ぎていたのだろうか


「・・・・・・」


誰に、教えられた訳でもないのに

"きっと、この気持ちは恋なのだろう"

一杯一杯の心の中で、ほんのりと色づく想いに、自分で名前を付けた

雨の中、来るかもわからない彼を待っている

他の人から見たら、"悲劇のヒロイン"ぶってるなんて、揶揄されるかも知れない
でも、今の自分には、彼を待つ、この行為が行動が意味のあるもので、大事な事だった

他の人だけではない
彼にとっても、そうかもしれない
今日のデートだって、彼の思い付きで、気まぐれの1つなのかもしれない

けれど、とても嬉しかった

"・・・また、逢える?"

彼の言葉
それは、いつの間にか、自分の中で大切な言葉になった

彼に逢う、次の約束は、また、次に繋がっているような気がして
決して、終わる事のない、物語のようで


(・・・これは彼の言う、恋の実験に過ぎない)

本当はどこかで、本当の意味を分かっているのに

「・・・・・・・・」

雨でけぶる景色の中、彼の姿を探して
浅く、短い呼吸の中で、薄く淡い白い息が、浮かんでは消えて

微かな雨の匂いに 目を閉じて
彼を想い
瞼の裏の闇には
己の恋心が見え隠れする

口元に、両手を合わせて、髪先から、瞳先から滴り落ちる雫を受け止める
雨に打たれて、身体が冷えても

誰かを想うこの気持ちに比べたら
誰かを想うこの痛みに比べたら
全然、比べ物にならないものだった

誰かを想う気持ちは
こんなにも苦しくて こんなにも寂しくて

だけど2人でいられる時間は特別で、楽しくて

(・・・・どうして、彼は来ないのだろう?)

逢えない時間は、残酷で

それでも

(・・・もうすぐ、来るような気がする)


瞼を閉じても、開いても、優しい彼の顔しか浮かんでこなくて

自分の中の時間が止まってしまったかのように
自分の周りの景色が、全く動かない静止画のように見えて

暗い暗い モノクロの世界の中に、自分だけが立ち尽くしている


(・・・もうすぐ、きっと)

気持ちだけが、ずっと彼の方へと向いていて
ずっと、彼の姿だけを探している

(・・・きっと)

止められない感情と諦めのせめぎ合い
溢れ出しそうな心の中に
ほんのり色が落ちて
見慣れた、金色の髪と、紫色の瞳が混じり合う


「・・・小日向さん・・・どうして・・・・」


彼がとても泣きそうな顔している

また、新しい彼の顔だ


(・・・そうだ、きっと、私は彼の事を知りたいと思った時から、彼に恋をしていた)


ただただ、長い間、気が付かなかっただけで


「・・・逢いたかったから」


例えば、これが彼にとって、実験に過ぎなくても


「・・・こんなにずぶ濡れになってまで?」


片時も忘れず、彼を思い出しては、彼に恋をして
初めて逢ったあの時から 

ずっと、今まで

指が絡んだ1秒がもどかしい

引き寄せられた、彼の体温が、熱が
自分の冷えた身体には、心地良かった

「・・・君は、馬鹿だ、僕は、ただ君に恋をするふりをしているだけなのに
それでも、待っているなんて、どうかしているよ」

例えば、これが彼にとって「恋」と呼ばないものだったとしても


"・・・天宮さんが欲しいものは何ですか?"

"僕が欲しいものは恋心だよ、胸を焦がし、理性を奪い去る程の恋が知りたい"

"・・・・恋・・・"

"人の心を狂わせる程の強い気持ちって、どんなものだろう?"


それが、彼に与えられる、望む恋ではなかったとしても


「・・・天宮さんだって、ここに来たでしょう?」


"ねぇ、小日向さん、君は知ってる?それがどんなものなのか、僕に教えてくれる?"


私は、きっとあなたに「恋」をしている


嘘でも
本当でも 
彼の言葉欲しい


「・・・・僕は君と違う、君みたいに綺麗な存在じゃない」
「・・・・・」
「・・・小日向さん、僕を許してくれなくていい、どんなに怒っても良いから・・・僕を嫌いにならないで」


微かな雨の匂いに 目を閉じて
彼を想い
彼女を想い

瞼の裏の闇には
お互いの想いが交差する

胸を焦がして  理性を奪い去るほどの




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イロトリドリノセカイ





夢とうつつの間
たゆたう 浅い眠りの中で

薄い紗の幕のような影が
まぶたの裏側を滑る

暗闇の世界の中で 彼の存在を
手の届く 距離に感じる

この指先を伸ばしたなら
この瞳を開けたなら この先に何が起こるのだろう



                        ◆act.1 「眠り姫の秘密」




鮮やかな色が パレットにあらわになる


(・・・わぁ、すごく綺麗な色)

心の中で一つ、歓声を漏らして
夢中で、キャンバスに向かう彼を見つめる

ここは彼、"五十嵐ハル"の部屋だ
彼とは、この学園に転入してきてから、色々な出来事を乗り越えて
恋人同士になった
今は、共に謎を抱えながら
支え合って前に進む仲間のような存在でもある

どうして、今、この部屋にネリ自身がいるかと言えば
全ての授業が終わった、放課後
教室で、突然、彼が

「・・・あんたを描きたい」

と告白めいたセリフを彼女に言ったことが起因していて

彼女も
"彼の絵の手伝いをしている"

と言う名目上の傍らで
"デート"と言っても良いような、2人だけの大切な時間を
互いに共有している事に間違いなかった

(・・・どのくらい進んだのかな?)

モデルになっているネリからは、彼の描く"彼女"は見る事は出来ない
鮮やかな色がパレットにあらわになると言う事は、下書きは、もう終わったのだろうか?

彼の手が 指先が生み出す作品の1つ1つは
とても繊細で
見ているこちら側に、何か訴えてくるモノがある

まだ、自分がこの学園に転入したばかり頃
図書館で出逢った彼が

"絵って そんな言葉より、文章より こちら側に訴えてくる力がある"

と言っていた言葉を思い出す

「・・・・・」

絵筆を右手に持ち、絵と真剣に向き合っている彼の姿を見ると
過去に言った言葉そのままを
彼は、今もずっと形にしているのだな、と心から思う

(・・・見せて)

と彼に言えば、それで済むのかも知れないけれど
絵に集中している時の彼には、声かけや会話のキャッチボール等は
こちら側からは極めて少なくして、出来るだけ、彼の邪魔はしたくない

それに、絵を集中して描いている時の彼は
こちらからアクションを起こしても、それに対しての返答が皆無だと言う事は
ネリ自身、分かっている事で
多分、ここで彼に、何かアクションを起こしても、気づいてもらえない可能性が高い
だから、彼の好きなように、望むようにして欲しいし、させたいとも思う

(・・・わ)

彼が絵の着色に夢中になって、ネリは少し時間を持て余してしまった
モデルも下書きの段階なら、動かないという約束も
絶対的なものだが
どうやら、下書きは終わったらしく、ある程度動いても注意されたりすることはなかった

視線をあちこちの方向へと向けて
思わず、自分が座る椅子の後ろに、視線を送る

窓が少し開いているのだろうか

秋特有の少し冷たい風が、頬をかすめて
窓から差し込む 太陽の光がキラキラと小さい粒子のように見えて
目の前を明滅した

"キラキラ"

そんな音がしそうな
光の粒子の欠片たちを眺めて
思わずその粒子が掴めそうな気がして、指先を伸ばしてみる

(・・・残念)

何も掴めないネリの指先が、空を切って
膝元へと落ちた

明滅していた光の粒が、静かに目の前からゆらりと消える

(・・・何だか雪の結晶みたい)

最近、何を見ても、何をしても自分の世界が、周りの世界が
色鮮やかで、色づいているように見える

1人じゃ、感じた事のない感覚
1人 じゃ、知らなかった世界


(・・・・ハルくんと一緒だからかな)

静かに瞳を閉じて、深く息をする

最近、自分の世界は、とても"美しい"
自分の世界の中心には"彼"がいてくれる

そんな気がして

興味深いを見れば、彼に教えたいなと思ったり
綺麗なものを見れば、彼と一緒に共有したいなと感じたり

(・・・ちょっと驕り的な考えかな・・・)

と思いつつも

彼と自分が一緒にいる事で
彼と同じものを見ていると言う感覚が
その気持ちがそうさせるのかもしれないな、と感じた

「・・・・・」

彼の隣に一緒に居られる この時、この瞬間、この空間を感謝しながら
彼の描く絵に向けて


(・・・彼の目には、どんな"私"が映っているんだろう?)


そんな、彼に聞いてみたい気持ちを、心の中に抱く
淡くて、ふわふわとした、砂糖菓子にも似た甘い気持ち

彼の好きなように、望むような絵を描いて欲しい
彼が"自分"を書きたいと言うなら、自分も一生懸命、彼のお手伝いがしたい
と強く強く願いながら

(・・・ん・・・ちょっと)

"今日の場合は"

ネリは、瞳を閉じて、ほんの数時間前の事を思い出した
   

                                     ◆◆



「・・・間に合ってよかった」
ほっと深く息をついて、右手を胸元に当てる
それはハルの部屋に、来る数時間前の事

この学園は、階級が全てのせいか、1日の授業は、ネリ自身が作る

それぞれの必修と履修科目の中から
必要な科目や授業を選択し、単位を取る

その為に、クラスのメンバーも毎日、毎時間、教科ごとに入れ替わるのが常としている

石ころ、ミツバチ、薔薇
1年、2年、3年
年齢も階級もなしに、その授業を取るせいか
ネリが、彼がいつも一緒なわけではない
彼、ハルと同じ授業を取る事もあれば、取らない事もあるからだ

ネリの場合、外部からこの学園に来たせいか
授業の進み具合に付いていくのが、精一杯で
毎日、宿題に復習、予習と大変だったりする

案の定、クラブ活動だけは自由な所があるようで
そこだけは楽な部分ではあるけれど
それでも

「・・・絶対に、これは終わらない」

山のようにある宿題の束を目にしながら、机に向かって
首を深くうなだれた

ネリは、彼、ハルが取っていない選択授業で、どっさりと宿題が出た

「・・・頑張らなきゃ・・・」

思わず、ため息がこぼれて
ネリは、夜通しで、必死にノートを作る為に、宿題をこなす為に、徹夜したのだ
徹夜したおかげで宿題ノートが出せたことに、安堵はしたが

それは、昨日の話で

(・・・眠い・・・)

おかげで
2人で逢っている大切な時間、放課後に、その疲れが、どっと出てしまった

(・・・眠っちゃ駄目)

そう思っているのに、まぶたが重い

(・・・眠ったら、ハルくんの作品の手伝いが)


「・・・・・」

キャンバスに筆が当たる音だけが、部屋に響いていた

「・・・・・?・・・」

突然、何かに気付いたように彼が、ハタっと、手を止める

「・・・モデルさん、もう少し、上を向いてくれない?」
「・・・・・」

そう彼女に声をかけて、彼女の方へと視線を送る
いつもなら、すぐにでも

"ごめんね"とか"はいはい"とか返事が返って来そうなものなのに

今日はいつもと どこか違う

「・・・・ん?」

夕焼け空のオレンジ色に染まる窓を背景に
椅子に背中を預けたままの彼女が、静かに寝息を立てて、眠っていた




                       ◆act2.「絡み合う指と暗闇の先にあるお話」




さらさらとした紅茶色のような髪が、指先の間を流れる
人差し指がたどりついた唇は
赤く 紅く 朱く

花のように見えた


                                  ◆


「・・・モデルさん、もう少し上を向いてくれない?」

そう声をかけたのに、彼女の声が聞こえない

「・・・・?・・・」

一緒の部屋にいるのに、彼女の声が聞こえないだけで
何か物足りない感じの気持ちに襲われるのは
それだけ、彼女の存在が自分の中で、大きい存在になっていたことを理解する

「・・・ん?」

夕焼けの空のオレンジ色に染まる窓から、零れる光が眩しい

椅子に座る彼女に近づく
彼女の顔を覗きこむと、静かに寝息を立てて眠っていた

「・・・何だ、眠っちゃったの?」

その問いかけにも、彼女の返答はない

(・・・・そう言えば)

ハルはふと、彼女の寝顔を見つめながら
彼女の寝顔を見つめるのは"2回目"だと思った

「・・・可愛いな」

と思わず、心の声がポツリと零れて、ハルは彼女の寝顔を初めて見た時の事を思い出した


(・・・あの時も、同じ事を思ったんだっけ)


授業中、眠る彼女の横顔は
とても幸せそうで、授業内容そっちのけで、見続けて
思わず、ノートに、彼女の寝顔を
見たままそのままの表情を残しておきたくて
夢中で、描いていたような気がする

あの時の彼女の幸せそうな寝顔を思い出しながら
今の彼女の寝顔と比べて、対比して


(・・・ほんと、全然変わってない)


思わず、くすっと笑いそうになる

正面からの彼女の寝顔を見つめていると
気が付かなかった 彼女の色味の違いに気がつく

髪先は、ほんのりピンクがかった"淡い茶色"
頬は透き通る"白"
唇は・・・・

「・・・・・」

さっきまで、筆を握っていた右手の指先を、ゆっくりと彼女の顔先へと伸ばす
指先で、彼女の顔の輪郭をなぞってみると
彼女の頬に、己の指の痕が残る
夕焼け空のオレンジ色に染まる 窓の光のせいだろうか
彼女の唇は、赤く、紅く、"朱い"


「・・・まるで、紅い花が咲いているみたいだ」


(・・・すごく綺麗)


さらさらとした紅茶色のような髪に
人差し指がたどりついた彼女の唇

それは、赤く 紅く 紅い花


さらに、眠る彼女に、さらに近づくと
彼女の顔の上に、自分の黒い影が重なった

薄い紗の幕のような上に、己の黒い影

もっと触れたくなって、指先で、彼女の唇にもう一度触れてみる


「・・・ねぇ、起きないの?」


静かな時だけが流れて、時だけが夜へと傾いていく
2人だけの世界

いつもなら、俺の名前を呼ぶ、唇であると言うのに
今日は、この今の瞬間は
彼女は俺の名前を呼ばない


「・・・何かしゃべってよ、いつもみたいに」


そう彼女に小さく呟いても、彼女の返事がない


「・・・・・・・"ネリ"」


眠るお姫様に、近づく王子様のように
彼のさらさらした黒髪が、彼女の前髪に落ちて
彼女の唇に甘くキスを一つ落とす

「・・・・・」

夢とうつつの間
たゆたう眠りの中で

何か温かいものが唇に触れた

薄い紗の幕のような影が
まぶたの裏側を滑る

暗闇の世界の中で 彼の存在を
手の届く距離に感じた


「・・・ハル・・・くん・・・」

おぼろげな意識の中で、指先を伸ばす
彼女の声に、彼がハッとするかのように、肩を震わせた

「・・・ハルくん?」
「・・・な、何で、今!?あんた、寝てたんじゃないの?」
「・・・?」
「・・・今の・・・気づいたわけじゃないよな・・・」
「・・・・?」

心なしか、指先が触れた彼の手のひらは、熱く感じて
焦ったような 少しうわずったような そんな彼の声が聞こえた

「・・・ゆっくりでいいよ」
そう言う彼の声に 導かれるように、ゆっくり、ゆっくり、瞳を開く

(・・・え!?)

ゆっくり瞳を開くと、そこには、彼の顔がすぐ近くにあって
突然の出来事に、今度はネリがあわあわとする

「・・・その・・・ご、ごめんね」
「・・・何で、あやまんの?」
「え、あ、その、途中で眠ってしまったし・・・」
「・・・別に・・・あんたの寝顔、すごく可愛かったから」
「・・・ね、寝顔!?」
「・・・そりゃ、もう、"私、今、幸せです"って顔してた」
「な・・・っ・・・その・・・ハルくん、よだれとか・・・たらしてたりとか・・・」
「・・・たらしてた」
「・・・え・・!?」
「・・・とか言ってほしいの?」
「・・・いいえ、言って欲しくありません・・・」
「・・・むしろ、そっちに反応して欲しいんじゃなくて・・・俺が言った"可愛い"も軽くスルーされてるし・・・」
「・・・ん?」
「・・・でも」
「・・・でも?」
「・・・こっちの方が、あんたらしくて好きかも」
「・・・好き・・・」
「・・・こう言うのも悪くないね」
「・・・え?」
「・・・あんたの事、もっといろいろと知りたくなった」
「・・・知りたくって・・・ん・・・」

彼が、彼女の赤く 朱く "紅い"花のような唇に、予告なしに静かに口づける

「・・・っ・・・ふ・・・」

思わず、彼女から小さく声が出て、彼はたまらない気持ちになって
深く深く、口づけた

「・・・ん・・・」

彼女の花の蜜は、どんなお菓子よりも"甘く"
彼の唇は何度も、彼女の唇の上を滑っては、流れ落ちていくを繰り返した

「・・・く・・・苦しいよ、ハルくん・・・」

少し苦笑いした彼女の声にハッとして
「・・・ごめん」

と小さく謝る

彼女が、ふふっ、と笑うので

「・・・どう?俺の事も、もっと知りたくなった?」
とその笑顔を少しからかう気持ちで、彼女に声をかける
「・・・・!」

その言葉をまともに受け止めた彼女が
顔を真っ赤にして、視線を彷徨わせたかと思うと、下へと落とす
彼の顔をまともに見れないというように
両手で、顔を隠そうとするので

「・・・駄目」
と彼女の動きを制止した

今の自分の顔の赤さを誤魔化すかのように、彼女が

「・・・もうすぐ、夜だね」

窓の外
オレンジ色の空が夜へと近づいているのが分かって
思わず話をそらそうとする

「・・・そうだね」
とハルは返事を返して

彼の黒い影が、ネリ自身をの全てを覆い尽くしてしまいそうなくらいの
距離に近づいた

暗闇の世界の中で 彼の存在を
手の届く 距離に感じる

行き場のない指先を前へと伸ばす

「・・・それじゃ、また、顔隠されたりすると困るから、あんたの指先は頂くね」

彼に、ネリ自身の指先をからめ捕られて、身動きが取れなくなる
まるでどこにも逃げられないと言うような 鳥籠の鳥のような感覚

「・・・瞳を閉じて?」
彼の声に、ネリは思わず、きゅっと瞳を閉じる

「・・・何が起きるの?」
その質問に、彼は答えない

クスクス、と暗闇の世界の外側から
彼の笑い声

「・・・ハルくん?」
「・・・さぁ、どうなるでしょう?」

次に、この瞳を開けたなら この先に何が起こるのだろう
絡み合う、指先に力が入った

「・・・それじゃ、瞳を開いても良いよ」

その答えは、彼しか知らない






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言ノ葉が繋ぐ僕と彼女の恋。







触れているだけなのに 
小さいようで大きな 彼女との接点

あやふやで 不鮮明で
虚ろで それは、不確かなもののはずなのに
僕と彼女は その温もりを知っている


お互い 気持ちを言葉にしなくても
お互い 気持ちを伝えなくても




               ◆act.1「余裕のない僕と笑顔の君」




秋雨の休日の午後
ここは、自分の部屋であり
眼前には、降りやまない雨の景色だけが、広がっている

「・・・・・」

眼を閉じていても、今、見た 雨の景色の残像が
頭の中に残って
今、ここにいる"自分"と言う存在を、よりリアルに感じさせる

耳に届くのは、自分の声と雨音

そして

「・・・静さん、紅茶にお砂糖は入れますか?」

彼女の声

朝から雨が降るせいか、今日は肌寒い
彼女は、いつも、僕が何も言わないのに、僕の望んでいた事をこなしてしまう

そつなく
いかにも簡単かと言うように

何一つ、そんなそぶり1つ 見せないままで

「・・・・小日向さん」

だから、僕は

「・・・ありがとう、それじゃ、1つ」

その都度、彼女に、感謝の気持ちを伝えるようにしている

「・・・はいどうぞ」

テーブルの真ん中に
彼女が、ティーセットをトレイのまま、音を立てずに置いて
ティーポットから、陶器のカップに、紅茶を並々と紅茶を注いでくれる

「・・・ありがとう」

甘い甘い紅茶の香りが、ゆるく、鼻先をついて
薄い薄い白色の湯気が、カップの先から、天井へと上って
近くの、外窓のガラスを曇らせていた

紅茶の色は、部屋の明かりのせいか
いつもの琥珀色よりも、少し明るい、赤い色のように見えて
僕の目の前で、ゆらゆら揺れた


「・・・あぁ、綺麗だね」

思わず、言葉を口にした僕に

「・・・紅茶の色ですか?」
と彼女が返して
「・・・うん」
と僕が答えると

「・・・そうですね」

と彼女が僕を見て、柔らかく笑った


(・・・本当は、彼女と二人で、久々のデートだったのに)


と、朝から降りやまない 外の雨の景色を少し恨めしく思った


最近の僕は、彼女と学年が違うせいか、すれ違っていてばかりで
中々、彼女と逢えない日々が続いた

正直な所、彼女を大事に出来ているか、とか
彼女は、僕と逢えなくても、僕の事を好きでいてくれているんだろうかとか
自分勝手な事ばかりの事を考えていた

以前の自分からしたら、到底考えられない事ばかりの事を

「・・・・・」

カップの中で、彼女の入れてくれた砂糖が
しゅわしゅわと
まるで炭酸のように音を立てて 溶けて

"味が均一になるように"
と手渡されたスプーンで、かき回すと
砂糖は完全に溶けたのか、見えなくなった

「・・・せっかくなのに、残念だったね」

念を推すかのように、紅茶のカップに視線を落としながら
彼女に声をかけると

「・・・・そうですね」
とさっきと同じく、柔らかく笑ったままの返事が返ってくる

「・・・ん?」
彼女の笑顔を不思議に思って
「・・・どうして、そんなに君は笑っているの?」
そう、彼女に聞くと
「・・・静さんと、今日はずっと一緒に居られるのが、すごく嬉しいので」
と返事が返ってくる

「・・・・・」

彼女の言葉に、僕は
紅茶のカップを思わず、動揺して落としそうになって
琥珀色よりも少し明るい色の紅茶が、テーブルに零れそうになった
手のひらがとても熱い

彼女が僕にと注いでくれた紅茶の
カップの熱は、とっくに覚めていると言うのに

急に変に心が焦って
いつもなら、冷静に彼女の切り替えしているはずの僕であると言うのに
出来ていたはずの自分、出来る自分を思い出せなくなった

(・・・あぁ・・・余裕がないな、僕は)

思わず、目の前にいる彼女の顔を見つめると
彼女は、さっきと変わらないままの笑顔で、僕の顔を見つめ返してくる


「・・・静さん、何を考えているのですか?」


変わらないままの彼女
笑顔の君

首を少し左に傾けた彼女が、不思議そうにそう言った


「・・・・・」

返事を返せないまま
穏やかな瞬間だな、と、そう、とても強く感じる
そして


(・・・・そう言う君が、とても好きだよ)


この今の気持ちを言葉にしないまま、僕は心の中で
静かに静かに、彼女を想う

「・・・何も」
僕は、笑って彼女に返す

「・・・・?」

この今の 心の言葉を口にしてしまったら
軽薄で、言葉の意味そのものが、薄っぺらい、"何か"に変わって消えて、流れて
いってしまいそうな そんな気がして

他に続く、彼女への言葉を探した

すると、彼女が変わらない笑顔のままで、先に言葉を紡ぐ

「・・・思い出したら、教えて下さいね」
「・・・そうだね」


彼女に捧ぐ本当な言葉は、重く、甘く、大事なものにしたい





                    ◆act2.「砂糖味のキス」



「・・・降りやまないね」


さっきまでの僕は
"外は雨が降っていて、どこへも彼女を連れだす事が出来ない"
そんな苛立ちにも似たような思いで一杯で あったのに

今の気持ちは、全く違う


「・・・・今日は1日、ずっと雨だそうですよ」
「・・・そうか、今日は1日雨なんだね」
「・・・はい」


(・・・僕は変わっていく)


それまで、今まで、ずっと欲しくても手に入れる事のなかった感情の一つ一つが

今、彼女と彼女の言葉と共に

自分の元へと舞い落ちてきて
自分の何かを変えていく


(・・・必要なんだ、彼女がとても)

脳内で鳴り響いている
振り落ちてくる、音の欠片を集めるかのように
彼女の言葉一つ一つに動揺したり、焦ったり、救われたりして
僕は、彼女を必要としている

自分の中にある"本当の感情に"
自分の中にある求める音を探し求めて

彼女の言葉一つで変わってしまう自分自身の心に
戸惑いと、そして同時に、嬉しさを覚えている

「・・・・・」

ほんの少し前の自分なら
自分の中に、こんな気持ちがある事も
こんな気持ちが、自分の中から、生まれてくる事も知らなかった

嫉妬に似た苛立ち
感情的な心
動揺して、戸惑う 変に焦った自分

それは、自分自身が、それらを必要としなかったし
無知であったから、自分から、求める必要もなかったからだ

必要のない、無駄な事
自分にとって有益ではない"何か"

それに、過去の、昔の僕自身の中には
"彼女"と言う存在は、存在していなかった

彼女のいない日々

それは確かに、過去の自分には
その日々が、必要なものであり、とても大事な時間であったはずなのに
自分の過去のページのどこかには存在してたのかも知れないはずなのに
今になっては思い出せない

隙間のない、無機質な空間、時間

ただ、淡々と、流れてくる日々を義務的にこなして
生きていくために必要なピアノを弾いて過ごす日々

知らない自分なら、それで良かった
知らない自分なら、それが当たり前だった

だけど

「・・・こうして過ごすのも、良いですね」

彼女の声にハッと気づかされる

目の前に座る彼女がカップを持ちながら、ほーっと、息を付いて
彼女は僕に笑いかける

「・・・・・・」

そんな彼女を見つめながら、僕も彼女に釣られるように深く深く、深呼吸する

秋雨の午後
僕は彼女と一緒に、ここにいる

ピアノを弾くわけでもなく、楽譜を眺めるわけでもなく
何をするわけでもなく

ただ静かに 静かに
僕は、彼女と紅茶を飲んで、同じ部屋で、同じ時を過ごしている

誰かが決めたわけでもなく
誰に決められたわけでもなく

ただ静かに 静かに

「・・・・・」

昔の自分だったのなら
こうして、彼女と過ごす時間を、どう思ったのだろうか

ずっとずっと一人だった、1人で過ごしてきた自分が
誰かと一緒に、同じ部屋で過ごす事さえ、考え付かなかっただろうか?


"無駄"?  "無機質"?
それとも

「・・・・好き」
「・・・え?」
「・・・僕もこうやって、小日向さんと過ごす時間がとても大切で、とても大好きだよ」

苛立ちのような思いは、ゆっくりと彼女の存在に溶かされて
紅茶の中に溶けた砂糖のように、見えなくなる

「・・・きっと君が、僕の傍に居てくれたから、僕は知る事が出来たんだろうね」

そう、砂糖のように

「・・・・・」
「・・・どうしたの?」

彼女がハッとしたかのように、僕から慌てて、視線を外して
持っていたカップで、顔を隠す

「・・・静さん、それは、私も同じですよ」


彼女にとって僕と言う存在は

"無駄"?  "無機質"?
それとも

「・・・・"好き"?」
「・・・はい」

長く伸びたお互いの影が、部屋の壁に伸びて
気が付くと、雨音はそのままに、空の色だけが黒へと変わっていた

僕は、ティーセットの置かれている、ガラスのテーブルに手をついて
彼女に静かに近づいていく

雨音だけがやけに響いて、もうすぐ"今日"と言う1日が終わる

彼女と過ごす時間は、とても幸せで
色々な発見と驚きがあって
何より自分の変化を感じられる、濃厚で密な瞬間であると言うのに
時は無情にも、あっという間で 、その一瞬、一瞬が尊くて、儚い


(・・・・儚い一瞬だから、今のこの時を閉じ込めておきたい)


カップで隠された顔はまだ見えない
僕は彼女の指先に触れて、彼女の影に、自分の影を重ねた

「・・・好き?」

隠れていた彼女の顔を、自分の両手で、少しずつ、少しずつこじ開けて
恥ずかしそうな彼女を見る

「・・・恥ずかしいです」

「・・・それなら、眼を閉じるといいよ」
「・・・こうですか?」

瞳を閉じる彼女に、そのまま、1つ深いキスを、静かに口先に落とした

「・・・ん・・・」
「・・・っん・・・・」

お互いに舌先が絡み合って離れあったかと思うと
また、深く繋りあって
お互いの耳には、雨音と、お互いの声と、繋がり合う、淫靡な音だけが部屋に響いた

「・・・静さん・・・・・」
「・・・・ん?」

蕩けてしまいそうな、彼女のうるむ瞳に
僕は、心ごと、彼女の中に落下していく

何か言葉を探そうと、続けようと、交わそうとする代わりに
僕は、彼女に、さらに深い深いキスで返した


「・・・・ん・・・っ・・・」
「・・・・っ」


息が、お互い出来ないくらいに

彼女が、顔を隠していた陶器のティーカップが
彼女の手の力が無くなった反動で、テーブルへと落ちて
カタン、と音を立てて、テーブルの上に転がった
硝子のテーブルに手を付いていない方の手のひらで
彼女を引き寄せて、いつもならピアノを弾く、己の指先で、彼女の指先を拘束する

「・・・・っ・・・ふ・・・」

カップの中身は
キスの前に彼女が飲みきったせいか、テーブル上には零れる事はなく
その代わり、自分と彼女とのキスで
お互いに絡み合った舌先から流れ落ちた、唾液が
ぼたぼたっと、硝子のテーブルに落ちて、キスの痕を、硝子のテーブルの上に、幾重にも残した

「・・・やぁ・・・恥ずかしい・・・」
「・・・大丈夫、君はとても可愛いよ」

深く深く沈んでいく 視線の先
絡み合う舌先
繋がり合う、お互いの指先

(・・・あぁ・・・甘い)

口の中は、溶けきった、砂糖の味がして
彼女とのキスは、ただただ甘くて、僕は、彼女とのキスに溺れた




               ◆act3.「今日が終わってしまうその前に」



「・・・・ティーカップ、割れなくて良かったですね」


硝子の上のティーセットのトレイを片付けながら、彼女が僕に声をかける
彼女は気づいていない

硝子のテーブルの上にある、お互いのキスの"痕跡"を


「・・・うん、そうだね」


触れているだけなのに 
小さいようで大きな 彼女との接点

あやふやで 不鮮明で
虚ろで それは、不確かなもののはずなのに
僕と彼女は その温もりを知っている

「・・・僕も手伝うよ」
と彼女に言って、僕は、ガラスのテーブルの上の痕跡をふき取る
食器を洗う音がして
「・・・そこに置いておいてくれれば」
と彼女に言うと
「・・・私が好きでしているんですよ」
と彼女に返される

その言葉に、僕は、また動揺して
続く言葉を見失ってしまう
そして


(・・・・そう言う君が、とても好きだよ)


この今の気持ちを言葉にしないまま、僕は心の中で
静かに静かに、彼女を想う

心地良い時間

「・・・・こういう時間も良いね」


真っ暗闇の夜
もうすぐ、大事な"今日"が終わって、また新しい"明日"がやって来る

「・・・・今日が終わってしまう前に」
「・・・ん?」
「・・何か、聞かせてくれますか?」
「・・・いいよ」
「・・・それじゃ」


"きらきら星"


お互い 気持ちを言葉にしなくても
お互い 気持ちを伝えなくても


ピアノに指を滑らせると、彼女が嬉しそうに


「・・・今、静さんが弾く、同じ曲の事を考えていました」

と笑う

「・・・あぁ、良いね」


変わらないままの彼女
笑顔の君

彼女に捧ぐ本当な言葉は、重く、甘く、大事なものでありたい




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